2012年3月21日水曜日

Salon du livre 2012

3月15日から19日まで、パリで開催されたブックフェア「Salon du livre 2012」に
行ってきました。

上村一夫の「関東平野」(仏題:La Plaine du KANTO)が、Zoom Japon賞を
授賞したとのご報告をエージェントさんからお知らせいただいたのが閏日の2月29日。
久しぶりの嬉しいニュースにテンションが上がり、事情もよくわからないまま
「では、行きます」と即決。
しかし、いざパスポートを見たら期限切れ。大雪の中、都庁と旅行会社へ走る。
着々と準備をする中で、今回の授賞式は父と参加する気分にしよう、と思い立ち、
写真や「リリシズム」や父の古いコートを荷物に入れた。


出発の日が近づいてきた3月10日、あのB.Dの巨匠、メビウスことジャン・ジローさんの
訃報が届く。ブックフェアを前にショックだった。メビウスさんは私が2009年に渡仏した際、ディナーをご一緒してくださった。気難しい方なのでは、と思っていたのだが、ご自分の絵のTシャツを着て、とても優しくキュートな方だった。父の作品ファイルをお見せしたらたくさん褒めてくださった。あんなに素敵な作家がいなくなってしまったなんて。フランスのBDファンはじめ多くの方が悲しい気持ちだろう、と胸が痛む。父もきっと影響を受けたはず。父に代わって生前お会いできて本当によかった。心よりご冥福をお祈りします。

2009年パリにて


出発前日、千葉で地震があったので、少し覚悟しながら成田へ。パリは二年ぶりとなる。
以前、アングレーム漫画フェスティバルで数々の取材を受けた際、フランス人ジャーナリストのボキャブラリーの多さに圧倒され、無口な日本人になってしまったことを反省しつつ、今回こそは喋り負けるものかと渡仏前から気合いが入る。

無事到着後、すぐに前夜祭へ。時差ボケもなく意外に元気。
地下鉄に乗って15区にあるPorte de Versailleまで。会場は駅を出てすぐの場所だった。
前夜祭というから関係者が一所で優雅にワインでも飲んでいるのだろうか、と思ったら
5万平米という広い会場中に人・人・人。そこここでシャンパンを飲んでいてすごい賑わい。なにより目につくのがお洒落な出版関係者。思わず写真を撮ってしまうほど。
  
夕暮れの入場ゲート。

出版関係者洒落者多し

人の多さに圧倒されつつもざっと会場を巡る。 毎年この時期に開催されるフランス最大の書籍見本市「Salon du livre」は、1981年にフランス国立出版組合が創始し、今年で32回目を迎えるそうだ。毎年大小1000社以上の出版社が参加し、昨年の入場者はざっと18万人という世界的に出版業界が注目するイベント。今年は3月16日から19日の4日間開催された。入場料9.5ユーロ(18才未満無料)をもろともせず老若男女が本を求めて訪れる。書籍の紹介や販売以外にも、各ブースで作家のサイン会や講演、公開ラジオなどもあり、活気に満ち、みんなとても楽しそう。日本のブックフェアはたぶんここまで熱くない、と思う。

そして、毎年招待国が選出され、その国の文学を中心に紹介される。今年は震災後一年となる日本が招待国だった。木材の美しい造形でデザインされた日本ブースには、被災地の写真が展示されていたり、フランスで出版されているあらゆるジャンルの日本の書籍が並んでいた。奥の会場では、今回招待された22名の有名作家が講演など行うらしい。こんなに大々的に日本を取り上げているのに日本のメディアがあまり取り上げないのは何故だろう。
その後、いつもお世話になっているDargaud社のブースでピンクのシャンパンなどいただく。飛び交うフランス語と洒落た人々にパリまで来たという実感が湧いてきた。

日本ブース

「同棲時代」 発見(手前)
「狂人関係」を手に取るパリジェンヌ

翌日から終日取材。 その模様は次回のご報告で。
初日、会場前にて
フランス人も並びます

初日のランチ。kanaのイヴ編集長とクリステルさん。
再会を喜ぶ。

それにしてもすごい人!MANGAエリアはもう子供たちで大変なことになっている。そこらじゅうにNARUTOのお面のキッズ達!MANGAが子供を引きつける力の強さは万国共通らしい。




翌日は取材の後、賞をくださったZOOM Japonの編集長 Claude Leblancさんとついにご対面。彼とは事前にツイッターでフォローし合う仲だったのですぐに意気投合した。今回の受賞に到るまでの経緯を初めて聞く。

Claude Leblanc(クロード・ルブラン)さん

そもそも、ZOOM Japonとは、パリの日本語新聞「OVNI」を発行するEditions Ilyfunetが2010年6月に創刊したフリーペーパーで、フランス語圏を中心に年10回、毎回6万部以上頒布されている。(イベント時は15万部以上)内容は、日本を通して世界を見る、といった趣旨の日本を紹介する情報誌。日々のニュースをはじめ、芸術全般を細かく捉えた記事から日本の伝統文化、風習、旅、料理、言葉など、日本人としても大変勉強になる記事ばかり。

今回のZOOM Japon

特に今回の東日本大震災においての、ルブランさんの活動は素晴らしい。彼は震災後、石巻を訪れた際、石巻の手書き壁新聞に感銘を受け、現在彼の尽力により、パリの国立ギメ美術館に石巻手書き壁新聞が展示されている。そして、いまもZOOM Japonにおいて日々震災後の日本を伝え続けている。頭が下がる思いだ。日本では日仏学院など、日本語学校で手に入るらしいので、機会がありましたら是非お手に取ってみてください。

ギメ美術館での展示の記事


恐縮しつつ、授賞式では壇上へ。今回の授賞ではなんと賞金が出るという。申し訳なくて受け取れないので、気持ちだけありがたく受け取り、賞金は彼が協力している石巻の「みんなの家」に寄付することにした。


今回のZOOM Japon賞の素晴らしいところは、選ばれた作品の作家・翻訳家・出版社にそれぞれ賞を与える点。確かに作家の力だけでは異国で認められることはできない。力のある翻訳家と出版社と仕事ができて嬉しい。なかなか翻訳家とは会えないし。

東京在住の翻訳家、シルヴァン・サムソンさん(中央)
熱く上村作品を語ってくれた

上村作品を出版し続けてくださっているkanaのイヴ編集長
欧州では上村一夫の一番の理解者です

また、Zoom Japon賞は選出の方法が興味深い。2011年1月〜2012年1月の間にフランスで出版された日本のマンガと小説 全67冊、うちマンガ48冊と小説19冊を、Zoom Japonの読者の4名(42名の候補の中よりZoom Japonスタッフが選択)が67冊全てを読み、最終的に候補作6作を決定、その後、パリで選考会で審議が行なわれたそうだ。一般の読者が67冊読むってかなり大変なことだろう。その結果、「関東平野」が満場一致で決まったというから嬉しい。

その大変な審査をしてくれた一般審査員代表の二人が壇上で「関東平野」を選んだ理由を話してくれた。戦後の日本の混乱の中、ひとりの少年を通して見た日本の風景がとても興味深く、またその人間としての成長を描く内容が素晴らしい。1976年の作品ということが信じられない。といったことを話してくれた。感動してしまった。ZOOM JAPON賞ありがとう!!

左から翻訳のシルヴァンさん、私、kana編集長イヴさん、
ZOOM Japon編集長ルブランさん、審査員代表のお二人

 小説部門は伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」でした






日本から遠く離れた空の下、今回も父の仕事を通じて日本を知る旅だった。震災があったことで、取材時に3.11以降のことを話す機会も多く、改めて母国の今後を考えた。また、思っていた以上にフランスの方々の親日度は高く、チャリティやイベントなど、私達が知らないところであらゆる活動が行われていたと聞く。MANGAという文化がフランスにやってきたことで、その親日度が上がっていることも確かだ。MANGA文化の一端を担う作家の家族としても嬉しいことだ。大地震が起こったときは無力感に襲われたが、今回の渡仏のおかげで足元をもう一度見直すことができた。2007年の出会いから出版を続けてくださったkanaのイヴ編集長とクリステルさんにはいくら感謝しても足りない。これからも楽しみながらお互いの向上に努めたいと思う。

それにしても濃い4日間だった。
初の父との海外遠征だったかな、と思う。

2012年3月7日水曜日

生誕日

3月7日は上村一夫の生誕日。生きていたら72歳。
45歳という若さで死んだ父の72歳は想像できない。
若いままで、無茶苦茶なままで、こころやさしいまま。

でも写真をみるとかなり年寄りっぽい。

2012年3月3日土曜日

マイ・ラスト・ソング〜久世光彦さん七回忌〜


3月2日は久世光彦さんの命日です。
七回忌となる昨日は、六本木STBにて久世さんを偲ぶ会が開かれ、
僭越ながら参加させていただくことに。
七回忌といっても、とても華やかな雰囲気がなんだかよかった。
まずは朋子夫人にご挨拶。相変わらずキリリと美しい憧れの人。
席に案内されると正面に太郎くんがいて一安心。太郎くんの両隣は美空ひばりさんのご子息、なかにし礼さんご子息とすごい並びだ。
ほどなくして照明が落ち、久世さんの著書「マイラストソング」から浜田真理子さんの歌とピアノ、小泉今日子さんの朗読で構成されたステージが始まる。
浜田さんが奏でた最初のメロディは.......「港が見える丘」だった。
もうしょっぱなから涙があふれて止まらくなってしまった。
久世さんがいかに父をおもしろがり、一緒に時を過ごし、年下だった父の死を悲しんでくれたか、そんなことが一気に頭を巡り、泣いた。
小泉さんが朗読する久世さんの文章、「上村一夫は...」という くだりはとてもやさしく、文字とはまた違った響きがあり、沁みた。
まさか冒頭で父のことが語られるとは思ってもみなかったので動揺したが、久世さんの演出にまんまとひっかかった感じがして少し嬉しかった。
こんな素晴らしい七回忌もあるのだと思った。
いかに久世さんが多くの人に愛されていたかを知ることができた夜だった。
 
帰りに文庫になっていた「ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング」を購入。
「あなたは最後に何を聴きたいか」をテーマにした久世さんのエッセイ。誰かにプレゼントしたい気分になった。

すっかり緊張のほぐれた帰り道、お世話になっているK社長に引率され、
太郎くんとなかにしさんと久しぶりに六本木の夜。
大きな器のK社長にあれやこれやお話を聞いていただいたり、同じような境遇のご子息達と語り合い、あらためて背負った使命に燃える。この先なにができるかわからないけれど、今日みたいな素敵な形で父の遺作を繋いでいかねば、と思った。

2012年3月1日木曜日

Zoom Japon受賞のお知らせ

閏日に朗報が舞い込んだ。
毎年パリで開催されるフランス最大のブックフェア "Salon du livre" で
関東平野」がZoom Japon賞を受賞したとのご連絡。
こんなに嬉しいニュースは久しぶりだ。
さらにこの賞は、一般の読者が選んだものということでさらに嬉しい。
急遽パリへ行くことにした。


 「修羅雪姫」を皮切りに、海外出版が始まったのが2004年。
なかでもフランス語圏とドイツ語圏は、上村作品に深い理解と興味を持って
熱心に出版を続け、原画の展示も各地で積極的に開催してくださった。
そんな方々の地道な活動と、父の作品の力が今回の受賞となったのだと思います。
関わってくださったすべての方と、本を手に取ってくださった方に感謝します。
ありがとうございます。

父は1973年にヨーロッパを巡った。
「同棲時代」の思わぬヒットから逃れるように。
その頃はまさか日本の漫画が海外で読まれるなど思ってもみなかったろう。
ロートレックやゴッホが好きで、欧州への憧れも強かった父が生きていたら
どんなに喜んだことか。

父が着ていた古いコートを着て、ありがたく賞を受け取ってこよう。